水音 - MIZU-OTO -

Novels

瞳 : eye

■ arrival

 

「この街の筈だな」

 少年は、たった今到着したばかりの賑わう街を眺める。

「む……」

 大柄な男は、静かにうなずき、少年の行動を待つ。

「ほとんどノーヒントなんだよな。15歳前後の女なんて腐るほどいるっつの」

 悪態をつきながら、どうやって探すか考える。

「む……」

「ん? あー。そうか。目みりゃわかる?」

「む……」

「OK。じゃあ適当に探すか。まぁ、まずは寝るとこ探さないとな」

 歩き始めた少年の後を大柄な男がゆっくり着いていく。

「あ、あれうまそうじゃね?」

 野菜を焼いている露店に向かって駆けていく少年を見て、道の真ん中で立ち止まる。

 少し待つと、少年が焼けた野菜の刺さった串を3本持って、大柄な男のもとへ戻ってきた。

「はいよ」

 少年は串を2本渡して、自分は残りの一本を食べ始める。

「む……」

 大柄な男も受け取った串を食べ始める。2本とも食べ終わって少年を見ると、少年はまだ食べ終わっていなかった。

「む……」

「そんなに早く食えないって。まぁ、歩きながら食うか」

 言って歩き始める。

 

「しかし、平和そのものだな」

 程なく見つけた宿の部屋で、少年がぽつり、とこぼす。

「……む」

「いや、だって、とてもこの街にいるとは思えないって。騒ぎの一つも聞こえねぇもん。やっぱ、俺らが着くまでに移動したんじゃね?」

「む……」

「まー、明日探してみりゃいいか。見つかんなきゃ見つかんないで平和でいいし」

「む……」

 大柄な男は、少年が本心からそれを言っているのでないことは充分わかっていた。

 少年は自分の中のポリシーに反しない限り、途中で仕事を投げ出したりはしない。

「さーて、とりあえず寝るか」

 と、3台あるベッドの2台をくっつける。

「どっちにしたって狭いけど、我慢だね」

「む……」

 大柄な男は、2台並んだベッドに体をよこたえる。やや斜めに体を置くが、やはりはみ出してしまう。

「でっかくなりたいけど、あんまりでっかいのも不便だね」

「む……」

 なんとか収まろうと体の向きを変えている大柄な男を見ながら、少年は部屋の明かりを落とした。

 

 ……キィ

 静かに扉を開く音。

 ドスッ!

 ベッドに刃物のめり込む音が響く。

「――っ!?」

 手応えの無いのに驚いた男が慌てて後ろに飛び退く。

「あーあ、布団ちゃんと弁償しろよ?」

 パチン、声と共に部屋の照明が灯る。壁に寄りかかっている少年の顔には余裕が滲み出ている。

 バリィン!

 窓の割れる音に続いて、男が二人部屋に入ってくる。

「どこの誰だ?」

「――シッ!」

 少年の質問には答えず、男たちは――まずは少年に――襲い掛かる。

 ゴッ、ゴッ!

 鈍い音と共に後から入ってきた男二人は壁にたたきつけられる。

「む……」

 男たちを殴りつけたままの姿勢で大柄な男が息をつく。

「さーて、まだやんの? 仲間置いて逃げるか?」

 最初に入ってきた男に対して少年が問いかける。

「……」

 一瞬の沈黙のあと、男は扉から走って逃げ出す。

「いい判断だと思うよ――逃げ切れないことを除けばね」

「っ!?」

 扉から出た男が廊下の端――階段のある場所――に立って待ち構える少年を見て声を詰まらせる。

「ば……ばかな……」

「で? どこの誰よ?」

「……化け物どもがっ!!」

 はき捨てるように言って男が少年に襲い掛かる。

 ストン……

 一瞬で首筋に手刀を入れられ床にキスをする。

「……違うとは言わねぇよ」

 床で寝ている男の言葉を思い出しながら、少年は独り呟いた。

 

「なんだかわかった?」

 少年が大柄な男に聞く――少年はふてくされて寝っ転がっていた。

「む……」

 大柄な男は少年に向かって銃器を差し出す。

「FoRCE? こいつら……ハンドラーなのか?」

「む……」

 大柄の男は首を振る。

「こいつらのもんじゃないって? なるほど、どっかでたまたま拾ったわけか」

 FoRCEを持つにはBH協会の試験に合格する必要があるが、たまたま遺跡などで拾った他人のEPや発掘品のFoRCEを使う賞金稼ぎや盗賊も珍しくは無かった。

「これがFoRCEか……手に取るのは初めてだな」

 少年が感慨深げに手にした銃器――EP――を眺める。

「引き金引いても動かないな」

「む……」

「あー適正か何かがあるんだっけ? わかってても『お前には出来ない』って感じだとむかつくな」

 少年はいらだたしげに握り締めた銃器を眺める。

「まぁこれは明日にでもBH協会に届けてやればいいだろ」

「……む」

 怪訝そうな顔をする大柄な男に対して少年は

「大丈夫だって。ぱっと見でばれるわけはないし、ついでに良い情報がもらえるかも知れないだろ?」

 少年たちの所属する団体『鼓動』と、FoRCEやハンドラーを管理する団体『BH協会』は決して温厚な関係には無い。これに『HAGANE』を加えて、三つ巴のにらみ合いが続いていた。

「……む」

「大丈夫大丈夫。うまくやれる」

 心配そうな大柄の男をよそに少年は軽い口調で答えて布団にもぐる。

「む……」

 大柄な男も調べ終えた男たちを縛り、静かにベッドへ戻った。

 

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