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瞳 : eye
■ association
「お届けいただき有難うございます」
協会の受付の男がにこやかに少年からEPを受け取る。反射の強い眼鏡をかけ、髪はオールバックにしている。
ハンドラー以外のものが協会にFoRCEを引き渡すのは非常に珍しいことだった。なぜなら、ハンドラーがFoRCEを協会に納めるとハンドラーズランクに関係するポイントが発行されるが、ハンドラー以外にこのポイントは価値が無いし発行もされないからだ。そのため、ハンドラー以外がFoRCEを引き渡したとき用の報酬が用意されていたが、それは微々たるもので、それ以上の額で引き取ってくれる人間はいくらでもいた。
「こちらがお礼です」
言って受付の男はいくらかの金額と名刺をテーブルの上に置く。
「こちらの名刺があれば、BH協会に仕事の依頼をするときに割引が受けられます。ぜひご利用ください」
一通り説明を聞いて満足した少年は本題を切り出す。
「おれたちも一応賞金稼ぎみたいなことしてるんだけどさー、最近なんかこの街で変わったことってないの?」
「変わったこと……ですか?」
さすがにこちらの機嫌を損ねるわけにはいかないのか、受付の男はしばらく考えた後、
「そういえば、ここ二週間ほど深夜に男が何人か行方不明になる事件が。どれも素行の悪いものばかりで『天罰だ』なんて声が聞こえないでもありませんが、そろそろハンドラーにも依頼が来るのでは? という話でした」
「行方不明……か」
「む……」
大柄な男に少年は一瞬目を向けて目で合図する。
(――わかってるさ)
「なんでそんな話を俺たちに? ハンドラーに仕事が回ったほうがいいに決まってるよね?」
少年の言葉に受付の男は少し驚いたようだったが、
「えぇ、そうですね。話すか少し迷ったのはそこです。普段ならば確かにその方が良いのですが、現在は他の街の問題でこの街にいるハンドラーの絶対数が足りません。もしもに備えて、あまり些細な事件にハンドラーを投入したくないのが現状です」
「他の街の問題?」
「えぇ。軍の支部もあるグッサニンデで人手が必要らしく、大量のハンドラーが集められています」
「何があったの?」
「私もあまり詳しくは。脱獄騒ぎだ、との噂もありますが正規の情報ではありません」
「ふーん、そっか」
「む……」
大柄な男が少年に出るように促す。
(だな。お互いそろそろ怪しみだしたし)
「じゃ、行くわ。仕事がんばってね」
「はい、ありがとうございました」
言いながら受付の男は少年たちの特徴を事細かに紙に書き始める。
「普通の冒険者や賞金稼ぎではないな……。十中八九『HAGANE』か『鼓動』だろう」
更に覚えている限りのことを書き出す。
「これでグッサニンデにでも行ってくれれば有難いのだが……どうかな」
男にしてみれば、グッサニンデに行ってくれれば大量のハンドラーや軍が待ち構えているので捕らえるチャンスだと考えてのことだったが、実際にはこれは誤りだ。
グッサニンデは今、一欠片の『恐怖』によって壊滅的な被害を受けていた。軍支部の6割は既に死亡。終結したハンドラーのうち既に80人近くが返り討ちにあっていた。
「む……」
大柄な男が少年に対して厳しい視線を向ける。
「悪かったって。だってなんか気になるじゃん」
「む……」
「怒るなって、オキ。飯食いにいこうぜ? 腹減ってるからだって」
「……む」
オキと呼ばれた大柄な男は憮然としながらも若干食欲が勝る。
「うわ、待ってって」
先に飯屋を探して歩き出すオキを少年は小走りで追いかけた。
「どうすんの? グッサニンデ行ってみる?」
少年の問いにオキは静かに首を振る。
「じゃあ、深夜の失踪事件が先か」
「む……」
オキはゆっくりと頷く。
「お、あの店とかいいんじゃね?」
少年の指差した方を見てオキは更に歩みを速めた。