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瞳 : eye
■ dread
ビシュッ!
少年の左肩から血が噴き出す。直撃ではない。かすった程度だ。
(引き金を引く瞬間が見えるんだ。速いのさえわかってれば避けられない筈はない)
直撃を免れて少年はその自信をいっそう強めた。
「こちらが動かなければな」
真後ろから聞こえた男の声に少年は自分の考えが甘かったことを悟る。
(こいつ……強い。今までのハンドラーの比じゃない)
圧倒的な経験値の違いを前に少年は最後のあがきに出る。
ダンッ!
真上に跳び、星の血脈(ソウルトレント)に一気に限界まで干渉する。
(第一層……第二層……第三層……第四層っ!)
「上に逃げるのは愚か者のすることだ。それとも君たちならそこから移動できるのかな?」
(移動なんかしない……発動させるだけだ)
少年の扱える魔術の中で最も効力のあるもの。その明確なイメージを星の血脈(ソウルトレント)に伝える。
(空気を……止めろっ!)
上空に飛びながら右手の薬指に集めた力を使って第四層から『風』の記憶を呼び覚ます。
ッ………………
少年の求めに応じて、男の周りの一切の空気の動きが止まる。
無音の世界。
呼吸にさえ空気を動かすことは出来ない。
少年の真下から半径20mほどの空間で空気の流れが止まる。少年はそのまま落下し、空気の止まっている境界面に着地する。
「はぁっ……はぁっ……」
視界の端で少女とオキが効果範囲内から外れていることを確認する。
(奴は……)
男の姿を確認しようとするが、いない。
「驚いたぞ」
再び真後ろから響いた男の声に、今度こそ絶望を感じる。
「なるほど、大した威力の魔術だが、仲間に影響がいかないようにするために規模を狭め過ぎたな。あと5m大きかったら捕まっていたかもしれん」
そこで一間置いて、
「君は複数で動くには向かないようだな」
言って笑いをかみ殺す。
「まぁ、お別れだ」
EPの引き金を引こうとする。
「――っ!?」
だが男の体は動かなかった。
「馬鹿……なっ!? 一体……っ」
男はあたりをうかがう。少年ではない。大柄の男も気を失ったままだ。
ゾクッ……
そこで男は初めて身震いするほどの『恐怖』を感じた。
「おん……なっ……っ!?」
男が少女に目を向けると、包帯を取った少女が男を睨み据えていた。『瞳』が大きな目玉を彼に向けていた。
――殺させません。
男は少女の口がそう動いたような気がした。
次の瞬間――
男は意識を失った。